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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)726号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

原判決の確定するところによれば、上告人は当時上告人が、訴外森宮茂吉に賃貸中で、かつ同人との間には、同人は昭和二三年一〇月二〇日限り上告人に明渡すべき旨の調停の成立していた本件土地を右森宮茂吉から明渡を得た場合には、被上告人に賃貸することを約し、その際「被上告人は右土地使用権に対し上告人に対し金二六万円を支払うこと、但内金一五万円は即時前払する、もし前記明渡期日を経過すること一年に及んでも尚明渡が得られない場合には、明渡は一応不成功に終つたものとし、右金一五万円を、之に対する月五分の割合による利子を附して即時被上告人に返還する」との契約が成立し、右契約に従つて被上告人は本件金一五万円を交付したというのである。即ち右金一五万円は、将来被上告人、上告人間に右土地に対する賃貸借が成立した場合には借地権利金にするという趣旨の下において交付されたもので、しかも、右金員の授受については将来土地の賃貸借不成立の場合は、これを即時被上告人に返還すべき契約が為されていたものであることは明らかである。しかるに、上告人が前記明渡期日から一ケ年以上を経過した後も被上告人に右土地を引渡さず本件宅地に対する前示被上告人、上告人間の賃貸借は遂に不成立に終つたことは上告人の自認するところである。

とすれば、右金員はその授受の当初から将来賃貸借成立の場合には権利金とするけれども賃貸借不成立の場合には(もとよりこれを権利金とすることなく)即時返還すべき約旨の下に授受されたものであつて、かくの如き金員の交付を以てもとより権利金自体の交付と目すべきではなく、また従つてかかる金員の交付を以て直ちに不法原因に基づく給付と解すべきではないのである。しからば前示特約に基づいて右金員の返還を求める被上告人の本訴請求は正当であつて、これを認容した原判決は、結局において正当であつて、論旨はすべてこれを採用することはできないのである。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見を以て、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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